【自由研究】ブラッドリーの元ネタ小説を読む夏

推しのことがもっと知りたい(大声)。
オタクである以上、その欲望からはどうしても逃れられないものですが、「魔法使いの約束」には、それを叶えてくれる(かも)しれない、最大のテーマがあります。
それは、「魔法使い達は、文学作品を元ネタにして作られている」という事実です。
この話の初出はおそらく2019年11月の、浅沼さんと高橋さんのコメントです。
キャラクターが有名文学作品のモチーフであるところにワクワクしました。(オーエン役・浅沼さん)
魔法使いたちの名前は文学作品の登場人物から付けられてるとのことですが、ルチルとミチルは出典が分かり易くていいですな。(ミスラ役・高橋さん)
……情報の初出から半年以上、まほやく学会(Twitter)では、有識賢者の皆さまが盛んに「元ネタ」についての議論を交わしてくださっています。しかし、我が推し・ブラッドリーに関しては様々な説が乱立しており、未だ結論が出ていないように思えます。
そこで今回私は、ブラッドリーの元ネタと考察されているうちの2作品を実際に読んでみました。両作品について、
1)その本での『ブラッドリー』の立ち位置
2)その本の内容と感想
3)その本がブラッドリーの元ネタなのか?
をまとめてみましたので、お付き合いいただけると嬉しいです。
一応前置きさせて頂きたいのですが、私自身は一切文学に明るくない、ただのブラッドリーのオタクです。小説の解釈等、誤っている部分もあるかもしれませんが、どうぞ、ご容赦ください……。また、小説の内容についてがっつりネタバレしますので、ご注意ください。
①フェッセンデンの宇宙(エドモンド・ハミルトン:1937,1950)
アメリカのSF作家による短編。37年版と50年版があるが,話の大筋は同じ。セーラームーン(セーラースターズ)のはるかとみちるの会話にて引用されることでも有名(?)な作品です。絶版ですが、中古でならAmazonでも買うことができます。
◆「フェッセンデンの宇宙」における『ブラッドリー』
「フェッセンデンの宇宙」における『ブラッドリー』は、この小説の主人公です*2。『ブラッドリー』は天文学者であり、なんと大学で教鞭をとっているのですが、正直この設定だけで飯が食えますよね。私は昔から言ってるんですよ、ブラッドリーに眼鏡を渡してインテリ風味にしたらオタクは5秒で落ちるって!
ーーそれはともかく。お話は10月のある夜、彼がフェッセンデン氏の屋敷を訪ねるところから始まります。
◆「フェッセンデンの宇宙」の内容と感想
タイトルにもなっているフェッセンデン氏とは、少々風変わりな天才天文学者です。彼の屋敷を訪ねた『ブラッドリー』は、フェッセンデン氏が実験室の中に宇宙を創り出してしまったことを知ります。フェッセンデン氏は、科学者としての好奇心から、その宇宙を自在にあやつり、気まぐれに文明や生命を滅ぼす「実験」を始めるのですが、『ブラッドリー』は激怒。二人は取っ組み合いの喧嘩になり、結果、彼の小さな宇宙は屋敷ごと爆発して無くなってしまいます。『ブラッドリー』はなんとか屋敷から逃げ出すことに成功しますが、次のような観念が、頭にこびりつき離れなくなってしまうのです。
われわれ自身の広大な宇宙も、はるかに大きなスケールで見れば、ちっぽけな極小宇宙にすぎないのではないだろうか? そしてそのひとまわり大きな宇宙に、われわれの宇宙を興味深い実験対象としかみなさず、われわれの反応を研究して楽しむためだけに、われわれの世界に破滅をもたらす超実験者がいるのではないだろうか? あの天井にもフェッセンデンがいるのではないだろうか?
◆「フェッセンデンの宇宙」はブラッドリーの元ネタか?
……うーん、正直なんとも……。というのも、小説内の『ブラッドリー』と、ブラッドリー・ベインに似通った部分は、あまり無いように思えるからです。しかし「月」がテーマの「まほやく」そのものは、このようなSF作品と親和性が高いですし、……個人的にはブラッドリーが雲の街で「宇宙鶏」の話をしてくれた印象が強く、なんとなく彼と宇宙を結びつけたくなる気持ちがあります(のちの料理機能実装で、「宇宙鶏」は「スペキャ顔の鶏」の意だと判明してしまうのですが)。

仮に「フェッセンデンの宇宙」がブラッドリーの元ネタだとすると、フェッセンデン(=“われわれの世界に破滅をもたらす超実験者”)は、きっと、<大いなる厄災>を意味するでしょう。「フェッセンデンの宇宙」の『ブラッドリー』のように、我らがブラッドリーが<大いなる厄災>の本質に気づいてしまうとか……今後のメインシナリオで、そういうシーンがやってくるのだとすれば、それはすごくアツいです。
では次の本。
②ブラック・プリンス(アイリス・マードック:1973)
イギリスの女流作家の長編小説で「黒衣の王子」とも。現在は絶版で手に入りづらい(私はAmazonじゃなくてhttps://www.kosho.or.jp/で書いました)。ところで「黒衣の王子」って邦題が色気マシマシで正直クソ好みである。
◆「ブラック・プリンス」における『ブラッドリー』
「ブラック・プリンス」における『ブラッドリー』は、やはりこの小説の主人公です。彼は58歳の売れない作家であり、この小説は、彼自身が彼の身に起きた事件について、獄中で手記としてまとめたものとして書かれています。
描写によると、『ブラッドリー』は背が高くて金髪碧眼の柔和な紳士なんだとか(まほやくに慣れてしまうと、58歳なんて年齢、正直何も問題ではない)(金髪碧眼のおじさまは寧ろアリ寄りのアリ)。この『ブラッドリー』が、「ブラック・プリンス」……“黒衣の王子”なのでしょうか?
◆「ブラック・プリンス」の内容と感想
本書はとても長い小説ですが、以下の3編に大別できます。
1)痴話喧嘩に巻込まれてドタバタ編(上巻)
2)禁断の駆け落ちでドキドキ編(下巻殆ど)
3)『ブラッドリー』の正体編(ラスト31P)
1)痴話喧嘩に巻込まれてドタバタ編
『ブラッドリー』58歳の夏、彼は、作品の執筆に集中するため、海辺の別荘を借りる計画を立てていました。しかし、昔からの友人で作家仲間でもある、アーノルドから、「妻を殺してしまったかもしれない」と電話を受けたことをきっかけに、彼の計画はめちゃくちゃになっていきます。
……実際のところ、アーノルドは妻を殺してなんかいなくて、盛大な夫婦喧嘩をしただけでした。けれど、その喧嘩を皮切りにアーノルド夫妻の仲は悪化。さらには『ブラッドリー』の元妻や『ブラッドリー』の妹夫妻までも巻き込んで、熟年夫婦たちの一悶着ふた悶着が始まるのです。
しかし、「“ブラッドリーにまつわる熟年夫婦問題”って、もしやブラネロなのでは?🤔」と期待するのはオススメできません。
なぜなら、この後なんと上巻約200ページ(!)が、この「中年男女が不倫したされた、あるいはW不倫されかけた」話に費やされ、しかも、(おそらく作者の狙いなのですが、)それが醜悪に見えるように描写され続けるからです。
語彙が貧弱で本当申し訳ないんですけど、個人的な感覚としては、人妻モノのAVの導入だけを延々見せられてるような感じでした(各方面に怒られるぞ……?)。
2)禁断の駆け落ちでドキドキ編
ーーが。下巻に入ると一気に物語は急展開を迎えます。なんと『ブラッドリー』は、アーノルド夫妻の娘・ジュリアンと恋に落ち、例の海辺の別荘に駆け落ちするのです。ちなみにこのジュリアンという少女、20歳である(おいおい!)。
二人の歳の差や、「友人夫妻の娘」という関係性を踏まえれば、この恋はいかにもな「禁断の恋」。しかし、上巻のどろどろとした愛憎劇とは対照的に、この一幕は非常に美しく、爽やかに描かれています*3。
しかし、「“ブラッドリーにまつわる禁断の恋問題”って、もしやブラ晶なのでは?🤔」と期待するのはオススメできません。
なぜなら、この後の展開がひたすらに救いがないからです。ジュリアンの父・アーノルドは海辺の隠れ家を見つけ出し、ジュリアンはヴェニスへ隔離されてしまうし、『ブラッドリー』がロンドンに帰ると、実の妹が自殺で死んでいるし、さらに、なぜかアーノルド夫人はアーノルドを殺してしまっており、『ブラッドリー』はその罪を着せられて終身刑になってしまうのです。そんなひどいことある???
ーーさて。ここまで読んでくださった方は「結局、惚れた腫れたのハナシなんだなあ🤔」と思ったかもしれません。けど、下巻最後の31ページ、これまでの全ての認識が、ひっくり返されてしまいます。
3)『ブラッドリー』の正体編(ラスト31P)
冒頭で紹介した通り、この小説は『ブラッドリー』の手記としてまとめられています。しかし、小説の最後に、“『ブラッドリー』以外の登場人物”……例えばアーノルド夫人やジュリアンの手記が付されているのです。彼ら彼女らは思い思いに、一連の事件や『ブラッドリー』の事を語るのですが、それによればーーどうも、ここまでの『ブラッドリー』の手記は、妄想と作り話にまみれており、およそ真実ではないらしいのです。
曰く、
・『ブラッドリー』は精神を患っていた
・『ブラッドリー』は元妻と復縁したがっていた
・『ブラッドリー』はアーノルドに恋するホモセクシュアルだった
・『ブラッドリー』とジュリアンの出来事は、そのほとんどが作り話だ(!)
・アーノルドを殺したのは、『ブラッドリー』だった
などなど。
ーーここまでくると、もう、何が本当で何が嘘なのか、全く分からなくなってしまいます。ただ、少なくともこのお話は、「金髪碧眼の初老の小説家による、悲しい愛の物語」ではなかったのです*4。
◆「ブラック・プリンス」はブラッドリーの元ネタか?
滅茶苦茶に主観的判断であることは自覚の上で、「元ネタではないと思います」と言いたいところなのですが、一つ気にかかる点があります。それは、この小説全体の構成……つまり、『ブラッドリー』本人の語りと、周囲の人間の評価が大きく乖離していて、結局『ブラッドリー』の真実が分からなくなってしまう、という構成についてです。思うに、これは既に、ブラッドリーに起きかけている事実だと思います。
本当はブラッドリーは(北の魔法使いとしては)とり立てて強いというわけではなく、何度も死にかけながらここまで生き延びてきた男ですが、ほとんどの魔法使いや人間はそれを知りません。また、本当はブラッドリーは情に厚く、部下達のことを大切にできる男ですが、これもまた、ほとんどの魔法使いや人間は知らないでしょう。
何故か。それは一重に、ブラッドリーが不用意な弱みを見せない男だからです。
詳細は「盗賊のエチュード」の感想語り*5で既に書きましたが、彼は、彼自身の本当にナイーブな部分は決して人に見せてくれません。彼が見せるのは、「史上最強の大盗賊だ」と言い切る【強い姿】か、「運命を脱獄してきた」*6あるいは「これが俺の進化だ」*7と打ち明ける【整形された弱い姿】かどちらかです。
だから、ブラッドリーのことを知りたいと思った時、ブラッドリーの言葉をそのまま理解しても、多分その本当が分からないのです。

じゃあ他人は正確にブラッドリーの描写をできているのか?……というと、そうでもないと思います。ブラッドリーの最大の理解者であるはずのネロですが、彼も未だに「なぜブラッドリーが命を焦がすのか」腹落ちできていません*8。
また、詳細は描写されていませんが、スノホワフィガロに捕まり拷問された、あの「いい魔法使いキャンペーン」で、どれだけブラッドリーの尊厳が民衆の中で貶められたかはーー想像に難くないでしょう。尾ひれのついた悪い噂が、ブラッドリーには沢山あるハズなのです。

せめて、あのブラッドリーが捕まってしまった事件について、関係者達がちゃんと真実を話してくれたら。あの時、フィガロ達はどんな思いでブラッドリーを捕まえ、拷問にかけたのか。あの時、ブラッドリーはどんな思いで拷問に甘んじたのか(部下達に危害が及ばないようにしたんだって、私は信じている)。そしてネロ、ネロは、あの時一体何をしていたのか。
……ということに想いを馳せると、「ブラック・プリンス」で『ブラッドリー』がアーノルドを殺害したと裁判にかけられて、真実がよく分からないままに終身刑となる、あのシーンが思い出されてしまうんですよね。考えすぎでしょうか……。
おわりに:この夏、みんなで元ネタ作品を読もう
さて、ここまで、色々と書いてきましたが、まだまだ課題は残っています。
①「マリオン・ジマー・ブラッドリー」(作家名)の作品を読む
→元ネタはこの作家名である、という説もあります。
②「反転」可能性を考える
→「まほやく世界は現実と反転している」という有名な学説があります
③他の魔法使い達の元ネタと併せて考える
→「ブラッドリー←→元ネタ作品X」の関係性は、他の魔法使いでの関係性(例えば、「オズ←→『オズの魔法使い』」)と類似の可能性があります
私は、特に③が重要だと考えているのですが、さすがに21人全員の考察をする頭も体力も無く……賢者の皆様が、それぞれの推し魔法使いについて、元ネタを調べてくれないかな〜〜〜〜と他力本願な気持ちになっています。ので、興味を持たれた方は、是非夏休みのお供に、一冊読書キメちゃって欲しいです。ぜひ、是非。。。!
元ネタ一覧表は、東屋P(@azuma8p)さまがTwitterで公開されているものがわかりやすいかと思います。偉大な先駆者様です…!
東屋P on Twitter: "まほやく キャラ名元ネタ ほぼ確版 クロエ・ラスティカ修正 これでほぼほぼ確定かと思います… "
また、ヒースの元ネタ『嵐が丘』について語られている先行研究も見つけましたので、僭越ながら紹介させて頂きます。
【まほやく】元ネタ小説を読んでみる<『嵐が丘』とヒースクリフ>|ちくば|note
ヒースとシノの関係性、さらに厄災の傷に絡めた読み応えある記事でした。大変参考になりました……!(まほやくはわざわざ称号まで作ってニコイチ設定してるので、ニコイチ組の関係性で読み解くのは重要だよなあと思います。……どなたか、ここにネロの賢者様はいませんか!?)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
推しのことがもっと知りたい、ブラッドリー・ベインという男のことを何とかして知りたいという、そういう純な(邪な?)衝動で書いたせいで、小説の感想というよりも、単なる推し語りになってしまったような気もします。でも私は、沢山の賢者の皆様が元ネタ読書などを通して、いろんな形の愛を語ってくれるのを読みたいな……と切に願っています。
……とはいえ、現状、賢者様の感想を拾いづらいんですよね。。。誰か、良いタグ作ってくれないかな、#まほやく文芸部 みたいな。
ーー以上、ご清聴(?)ありがとうございました。
*1:ちなみに浅沼さんは、つい先月末発売のspoon.2Di vol.64内のキャストインタビューでも、「キャラクターは名作文学をモチーフに作られている」旨について触れてくれている
*2:ブラッドレイとする訳もあるらしいですが、綴りがBradleyなので実質同じ
*3:駆け落ち用の生活用品をこっそり揃えたり、別荘近くの海辺でとりとめなく小石を集めたり、穏やかな朝を平和な食卓と共に迎えたり、あるいは切実な夜を越えたりする。とにかく全てのシーンが美しく「みえるように」描かれている
*4:じゃあ「黒衣の王子」って一体何だったんだ?という問題への答えは、ちゃんと本文中にあらわされています。「暗黒の王」「暗黒の絶対者」「愛しかつ怖れた暗黒のエロス」……つまり、表現者の源泉となる(性的)衝動。言わずもがな、ここでいう「性的」は、実行為だけをさしているのではなく、生物的あるいは社会的生存の為の原理欲求みたいなところだと思うが。この物語は、不思議な手記をとおして、『ブラッドリー』が虚構(物語)を生み出すにまで至ったピュアな表現衝動をあらわしているのであり、もうとにかく、私の知っているブラッドリー・ベインの物語ではないんだと言いたいわけです
*5:https://blessyou.hateblo.jp/entry/2020/04/28/170036
*6:親愛スト
*8:これは、決してネロの観察が甘いからなんかでは無く、もっとシンプルに、二人の行動原理が異なるからなんだと思います。ブラッドリーとネロの最大の悲劇は、対話が不足していることじゃない。価値観が根本から違うことです


